仏壇の「引っ越し」から始まった問い
私事になりますが、身内が他界した際、それまで実家にあった仏壇と位牌を、祭祀を主宰する立場として引き取ることになりました。仏事に不慣れで戸惑いましたが、菩提寺の住職に相談し、お経をあげてもらう、引っ越すことを先祖に告げる、お塩・お酒・お米を供える、位牌は丁寧に包んで運ぶ、といった一通りの作法を教えていただき、無事に引っ越しを終えることができました。
このとき強く感じたのは、位牌を並べる作業をしている間に、祖父母の代から父母の代、そして自分へという時間の流れが、自分の中に流れ込んでくる感覚でした。「このお仏壇と位牌を自分が受け継ぎ、次の世代へ渡していく。その大きな時間の流れの中に自分は位置づけられている」という実感です。渡してくれた人がいて、渡す相手がいる。そのつながりの真ん中に自分がいるのだと気づかされました。
家系図は「縦」だけでなく「横」にも意味を持つ
事業承継の支援では、経営者や後継者の方に「家系図を書いてください」とお願いすることがあります。株主構成や相続の見通しを整理する第一歩として、まず家系図を書いていただくのです。私自身も自分の家系図を作ってみましたが、祖父母から父母、自分へという縦一本の系譜しか書けず、正直なところ、あまり面白みのない家系図だと感じていました。父の兄弟姉妹はすでに全員他界しており、それより前の代をたどる術もなかったからです。
ところが、父母それぞれの兄弟姉妹とその子ども(いとこ)まで書き加えてみると、横に大きく広がった家系図ができあがりました。そして、この横の広がりこそが、事業承継の現場でしばしば目にする「株式分散」の構図と重なることに気づいたのです。創業者が子ども全員に株式を分け与えると、二代目、三代目と代を重ねるうちに、株主が親族全体に広く分散していきます。家系図の横の広がりは、まさにその分散の構図を視覚的に示してくれるのです。
「渡す責任」を引き受けるということ
自社の株式が今どれだけ分散しているか、あるいはこれから分散していく可能性があるかを正確に把握している経営者は、実はそれほど多くありません。家系図を縦だけでなく横にも書いてみることで、将来の株主構成が具体的に見えてきます。誰が株主になり得るのか、誰に集約すべきなのか。その検討の出発点として、家系図は思いのほか有効なツールになります。
仏壇や位牌をどう扱うかは、代が変わればまた変わっていくのかもしれません。それでも、渡された者には、次の世代に渡す責任があります。事業や株式についても、同じことが言えるのではないでしょうか。今の経営者が、次の世代に何を、どのような形で渡すのかを考え、整理しておくこと。それ自体が、時間の流れをつなぐ一つの役割を果たすことになります。
まずはご自身の家系図を、縦だけでなく横にも広げて書いてみることから始めてみてはいかがでしょうか。株主として名前が挙がりうる範囲が、思っていたよりも広いことに気づかれるかもしれません。