事業承継の必要性に気付いた経営者が、次にぶつかるのが「誰に相談すればよいのか」「何から始めればよいのか」が分からないという壁です。私たちは、この壁の正体は、身近な相談相手の能力不足ではなく、「誰が全体をまとめるのか」が決まっていないという支援体制の構造問題だと考えています。本コラムでは、その構造を整理したうえで、経営者が本当に必要としている支援と、無料で利用できる公的な相談窓口をご紹介します。

事業承継は一つの専門分野では解決できない

事業承継には、後継者の選定と育成、経営計画、株式、税金、相続、借入金、経営者保証(経営者個人による保証)、家族関係、従業員や取引先への説明、経営者の引退後の生活など、非常に多くの問題が関係します。一つの専門分野だけでは全体を解決できません。

そもそも事業承継とは、単に「社長を交代すること」ではありません。会社が持っている技術、仕事の仕組み、従業員、お客様や取引先との信頼、会社の歴史や理念という「目に見えない資産」まで次の世代へ渡すことです(事業承継センター株式会社「事業承継とは?」)。渡すものがこれだけ広いのですから、関係する課題が税務にも法律にも金融にも経営にも家族関係にもまたがるのは、当然のことだといえます。問題は、この幅広い課題の全体を、誰が見るのかです。

「最も身近な相談相手」が入口として機能しないことがある

はじめに確認しておきたいことがあります。税理士や金融機関は、事業承継に欠かすことのできない大切な専門家・支援機関です。ここで問題にしているのは、職種全体の能力ではありません。

そのうえで、構造を見ていきます。経営者に最も身近な相談相手は、一般に顧問税理士や銀行・信用金庫です。しかし、税理士の中心的な専門領域は税務・会計であり、金融機関にもそれぞれ本来の業務があります。事業承継全体の計画づくりや長期的な伴走支援は、日頃報酬を受けて依頼されている仕事の外側にあることが多く、組織や担当者によっては、必要な知見や他の専門家との連携体制が十分でない場合があります。誰かの怠慢という話ではなく、業務の範囲がそもそもそのように設計されていないことが多い、ということです。

その結果、経営者が相談しても、税金や株価、融資など一部分の話だけで終わり、全体の計画づくりや適切な専門家への橋渡しまで進まないことがあります。最も身近なはずの相談相手が、事業承継の入口として十分に機能していないケースを、私たちは現場で見てきました。

経営者の側にもある「万能視」という落とし穴

この問題は、支援する側だけの話ではありません。

反対に、経営者の側が「長年会社を見てくれた先生なら、経営のこともすべて分かるはずだ」と顧問税理士を万能視し、本来は経営者自身が考え抜かなければならない後継者選びや会社の将来まで任せてしまうことがあります。重要な経営判断を専門家に依存し、自分で考えることを止めてしまう状態です。

また、助言する側が自分の専門外のことにも意見を述べる一方で、その分野を解決できる専門家へつながないため、事業承継が止まったり、選択肢が狭くなったりする場面もあります。

整理すると、これは特定の職種や個人の問題ではありません。税務、法律、金融、経営、家族関係などにまたがる課題であるにもかかわらず、「誰が全体をまとめるのか」が決まっていないという、支援体制上の問題です。私たちはこれを、支援体制の構造問題と捉えています。そして、支援する側と相談する側の双方がこの構造に気付かないまま向き合っていることが、「誰に相談すればいいか分からない」という状態を生んでいるのではないかと、私たちは考えています。

家族と話せないという、もう一つの壁

相談先の問題と並んで大きいのが、家族との関係です。

経営に人生を捧げてきたため、家族と過ごす時間や対話が減り、すれ違いが重なって、時には家族関係が深く傷ついているケースも実際にあります。その状態では、本来最も身近な相談相手であるはずの家族と、後継者のこと、株式や財産の分け方、引退後の生活について落ち着いて話し合うことができません。

その結果、会社を誰が継ぐのかという「事業承継」と、財産を家族にどう分けるのかという「相続」の生前調整が同時に行き詰まり、問題が次の世代に持ち越されることがあります。

経営者が本当に必要としているもの

では、経営者が本当に必要としているものは何でしょうか。制度の説明や買い手の紹介だけではありません。私たちは、次のような支援だと考えています。

  • 事業承継の重要性に気付くきっかけをつくってくれること
  • 何から始めるかを一緒に整理してくれること
  • 税務、法律、金融、経営、家族関係を横断して見てくれること
  • 特定の商品や方法を売る立場ではない第三者が、本音を聞いてくれること
  • 必要な専門家につなぎ、全体を調整してくれること
  • 家族や後継者との対話を支えてくれること
  • 会社を離れた後の人生や居場所まで一緒に考えてくれること

一言でいえば、こうした長期的な伴走支援です。課題の全体を一緒に見て、必要なときに必要な専門家へつないでくれる相手が求められていると、私たちは考えています。

無料で利用できる公的な相談窓口もあります

相談先が分からない場合には、私たちのような民間の専門家だけでなく、国が各都道府県に設置している無料の公的相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」も利用できます。民間か公的かを問わず、大切なのは、一部分ではなく全体を一緒に整理してくれる相手を見つけることです。

結論を押し付けることではなく、一緒に考え始めること

事業承継の出発点は、経営者に「早く辞めてください」「この人に継がせてください」と結論を押し付けることではありません。

「会社の何を残したいのか」「誰に託したいのか」「自分はその後、どう生きたいのか」を安心して話せる相手と一緒に考え始めることです。この仕事で最も大切なのは、経営者と後継者が納得し、自分たち自身で決断できるように支えることだと、私たちは考えています。

「誰に相談すればいいか分からない」と感じている段階のままで構いませんので、まずはお問い合わせからお声がけください。事業承継士が、何から始めるかの整理からご一緒します(事業承継士について)。

一次資料

最終確認日: 2026年8月15日