結論:延びたのは「計画の提出期限」だけ。「実行の期限」は延びていません

結論から申し上げます。令和8年度(2026年度)税制改正で延長されたのは、法人版事業承継税制(特例措置)の入口にあたる「特例承継計画」の提出期限であり、改正前の令和8年(2026年)3月31日から令和9年(2027年)9月30日になりました。一方、特例措置の適用期限、つまり贈与・相続を実際に行う期限は令和9年(2027年)12月31日のままで、延長されていません。

「事業承継税制が延びた」という言葉だけを聞いて「まだ先の話になった」と受け止めるのは危険です。本記事では、この「二つの期限」の違いを公式資料に基づいて整理します。

何がどう変わったのか――改正前との差

法人版事業承継税制(特例措置)は、非上場株式等についての贈与税・相続税の納税が猶予される制度で、特例措置の納税猶予割合は100%です。この特例措置を使うには、あらかじめ「特例承継計画」を都道府県に提出しておく必要があります。

令和8年度税制改正の前後で期限を整理すると、次のとおりです。

項目改正前改正後(現行)
特例承継計画の提出期限令和8年(2026年)3月31日令和9年(2027年)9月30日
特例措置の適用期限(贈与・相続の実行期限)令和9年(2027年)12月31日令和9年(2027年)12月31日(変更なし)

延長されたのは「入口の手続き」の期限だけです。国税庁の最新パンフレット(令和8年7月版)でも、適用対象となるのは「平成30年1月1日から令和9年12月31日までの間」の贈与・相続等と明記されており、実行の期限は動いていません。

「二つの期限」を正しく理解する

中小企業庁の公式ページには、次の二つの期限が並記されています。

  1. 特例承継計画の提出(申請)期限:令和9年(2027年)9月30日。平成30年(2018年)4月1日から令和9年9月30日までに、特例承継計画を都道府県に提出する必要があります。
  2. 事業承継(贈与・相続)の実行期限:令和9年(2027年)12月31日。特例措置の対象となるのは、平成30年(2018年)1月1日から令和9年12月31日までの間の贈与・相続等です。

公式資料でも、令和9年9月30日までに申請し、令和9年12月31日までに事業承継を行う必要があるとされています。計画を提出しただけでは完結せず、期限内に贈与・相続そのものを実行してはじめて特例措置の対象になり得る。これが本記事で最も強調したい点です。

特例措置と一般措置の違い――なぜ期限を意識するのか

法人版事業承継税制には、期限のある「特例措置」と、期限のない「一般措置」があります。国税庁の比較表に基づく主な違いは次のとおりです。

項目特例措置一般措置
事前の計画策定等特例承継計画の提出不要
適用期限ありなし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%贈与:100%/相続:80%
承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件弾力化承継後5年間平均8割の雇用維持が必要

特例措置は、対象株数・納税猶予割合・承継パターン・雇用確保要件のいずれをとっても一般措置と条件が異なります。そして期限を過ぎれば、本税制(事業承継税制)の枠組みの中では、期限のない一般措置のみが選択肢となります。「いつまでに動くか」で使える枠組みが変わる。これが期限を意識すべき理由です。

適用条件の確認――誰が対象になり得るか

特例措置の対象になり得るのは、大枠として次を満たすケースです(実際の適用可否は個別の要件確認が必要です)。

  • 平成30年4月1日から令和9年9月30日までに、特例承継計画を都道府県に提出していること
  • 贈与・相続等が、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの間に行われること
  • 後継者(受贈者)が、贈与の直前において会社の役員であること(特例措置の場合)

役員の要件は近年変わった点です。令和7年度(2025年度)税制改正で、「株式贈与日に後継者が役員就任後3年以上経過している必要がある」という役員就任期間の要件が、特例措置に限って事実上撤廃されました。一般措置では「贈与の日まで引き続き3年以上役員であること」が求められるのに対し、特例措置では「贈与の直前において会社の役員であること」で足ります。役員就任から3年たっていない後継者でも、特例措置では対象になり得るということです。なお、この緩和がいつ以後の贈与から適用されるかについては、本記事の基準日時点で一次資料により確定できていません。適用時期は必ず個別にご確認ください。

モデルケース(仮名)で考える「逆算」

以下は実在の企業・個人ではなく、理解のためのモデルケース(仮名)です。

製造業のA社では、社長の甲野さん(仮名・60代)が保有する自社株式を、専務を務める長男へ引き継ぐことを検討しています。甲野さんは「事業承継税制の期限が延びた」という報道を目にして、準備の先送りを考えていました。

しかし、延びたのは計画の提出期限(2027年9月30日)だけで、贈与・相続の実行期限は2027年12月31日のままです。特例措置の対象になり得るためには、(1)2027年9月30日までに特例承継計画を都道府県に提出し、(2)2027年12月31日までに贈与・相続等を実行する、という二段階を両方とも期限内に終える必要があります。仮に計画の提出が期限ぎりぎりの2027年9月30日になれば、実行期限までは3か月しか残りません。「提出期限が延びたからゆっくりでよい」のではなく、実行期限の2027年12月31日から逆算して段取りを組むことが必要です。

注意点――「延長」という言葉に潜む誤解

  1. 制度全体が延びたわけではない。延長されたのは特例承継計画の提出期限のみで、特例措置の適用期限(贈与・相続の実行期限=2027年12月31日)は延長されていません。
  2. 計画の提出はゴールではない。公式資料上も、期限内の申請と期限内の事業承継の両方が必要とされています。
  3. 期限後、本税制の枠内で残るのは一般措置のみ。一般措置に適用期限はありませんが、対象株数は総株式数の最大3分の2まで、相続の納税猶予割合は80%など、特例措置とは条件が異なります。なお、本記事は事業承継税制の解説であり、税制以外の承継の進め方はここでは扱いません。
  4. 適用可否は個別判断。本記事は期限と制度の枠組みの解説であり、個々の会社が利用できると保証するものではありません。要件の充足は必ず専門家(事業承継士が最適です)と確認してください。
  5. 情報の鮮度に注意。本記事は基準日(2026年8月4日)時点の公式資料に基づいています。最新の情報は文末の一次資料でご確認ください。

まずは「自社の二つの期限」の確認から

「自社の場合、いつまでに何をすべきか」は、株式の状況や後継者の状況によって一社ごとに変わります。二つの期限(2027年9月30日・2027年12月31日)から逆算して、いつまでに何を準備するかを早めに確認することをおすすめします。自社の期限確認や準備の進め方に不安がある場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。

一次資料

本記事の制度に関する記載は、以下の公式資料に基づいています(最終確認日:2026年8月4日)。