本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

「誰よりも会社のことを考えている」と思えた時、誰よりも上に行ける

なぜ、この言葉なのか

以前、ある女性経営者から相談を受けたことがあります。

彼女はもともと、お父さんが経営する会社で事務員として働いていました。ところが、そのお父さんが急逝され、突然、会社を継いで社長になることになりました。

その会社は、職人の技術を商売にしている会社でした。当然、現場では長年働いてきた職人たちの発言力が強い。技術を知らず、つい最近まで事務員だった彼女が社長になっても、なかなか言うことを聞いてもらえません。

何かを言えば、「現場のことを知らないくせに」「技術がわからない人に何がわかる」と返される。社長という肩書はあっても、経営者として認めてもらえない。彼女は、どうすれば職人たちの上に立って会社をまとめていけるのか悩んでいました。

技術で職人に勝つ必要はない

私は彼女に、職人と技術で勝負する必要はないと話しました。

何十年も現場で腕を磨いてきた職人に、今から技術で追いつこうとしても簡単ではありません。まして、経営者が会社で一番の技術者でなければならない理由もありません。

では、何で彼らの上に立つのか。

それは、「この会社のことを、誰よりも考えているのは自分だ」と胸を張って言えるようになることです。

会社をこれからどうしていくのか。社員とその家族をどう守るのか。お客様にどんな価値を提供していくのか。会社を5年後、10年後にどう残していくのか。

職人が技術のことを考えている時間以上に、経営者は会社全体のことを考える。その積み重ねが、経営者としての自信になります。

「会社への思いは、こいつには敵わない」と思わせる

経営者として本当に大切なのは、肩書で人を従わせることではありません。

周囲から、「技術のことなら俺の方が知っている。でも、会社のことを考えている深さでは、この人には敵わない」と思ってもらうことです。

そこまで会社のことを考え抜けば、技術や経験で負けていても、経営者として誰よりも上に立つことができます。そして、その思いを軸にして、「だから私はこうしたい」「この会社をこうしていきたい」と自分の言葉で語れるようになります。

私が彼女に、「誰よりも会社のことを考えているのは自分だ、と思えるようになればいい。そうすれば、誰よりも上に行ける」と話したとき、彼女の表情が変わったことを今でも覚えています。

自分には技術がない。現場経験もない。だから社長として認めてもらえない。そう考えていた彼女にとって、「技術で勝つ必要はない」ということが、一つの答えになったのだと思います。

後継者のあなたへ

後継者は、すべての仕事で社員より優れている必要はありません。

営業なら営業のプロがいる。製造なら製造のプロがいる。技術なら、自分より何十年も経験を積んだ職人がいる。それでいいのです。

経営者が誰にも負けてはいけないのは、会社を考える量と深さです。

「会社への思いでは、この人には敵わない」

社員からそう思われるほど会社のことを考え抜く。その自負が持てたとき、肩書だけではない、本当の意味で経営者として人の上に立てるようになるのだと思います。

あなたは、「この会社のことを誰よりも考えているのは自分だ」と、胸を張って言えるでしょうか。

本記事は、事業承継センター取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。