本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

製造業は違うものをつくれるだけでも幸せだ

なぜ、この言葉なのか

前回は、価格競争から抜け出すためには他社との違いをつくるしかないこと、そして、その違いは「つくること」か「売ること」のどちらかで生み出さなければならない、という話をしました。今回は、そのうちの「つくること」について考えてみたいと思います。 私は、製造業というのは、商売をするうえで実に恵まれた業態だと思っています。なぜなら、自分たちの手で、他社とは違うものを生み出せる可能性を持っているからです。当たり前のように聞こえるかもしれません。しかし、これは小売業や卸売業の経営者から見れば、実にうらやましいことなのです。

同じものを売る商売は、違いをつくるのが難しい

小売業や卸売業の難しさは、基本的に他社でも扱っている商品を販売しなければならないことです。例えば、同じメーカーの同じ商品を、複数の店が販売しているとします。顧客から見れば、どこで買っても商品そのものは変わりません。それなら、安い店から買おうとするのは当然です。 だからこそ、小売業や卸売業は、商品以外のところで違いをつくるために、さまざまな知恵を絞っています。品揃えを工夫する。顧客が求める商品を探して提案する。接客や説明を充実させる。注文しやすくする。早く届ける。購入後の相談に乗る。あるいは、特定の分野に専門性を持ち、「この商品を買うなら、あの店に相談したい」と思ってもらえる存在になる。扱っている商品が同じだからこそ、売り方やサービス、顧客との関係に違いをつくらなければならないのです。これは、簡単なことではありません。自分たちが販売する商品の仕様や性能を、自由に変えられるわけではないからです。

製造業には、違うものを生み出す力がある

では、製造業はどうでしょうか。 製造業には、自分たちで商品そのものを変えられるという、他の業態にはない大きな可能性があります。形を変える。材質を変える。性能を高める。使い勝手を良くする。顧客の要望に合わせて仕様を変える。あるいは、これまで培ってきた技術を別の用途に応用し、まったく新しい商品を生み出すことだって考えられます。 もちろん、世界で唯一無二の商品をつくることは簡単ではありません。しかし、そこまで大げさに考える必要はないのです。既存の商品に少し手を加えるだけでも、顧客にとっては大きな違いになることがあります。これまで不便だったことが解消される。作業時間が短くなる。長持ちするようになる。ほかの商品にはない使い方ができる。顧客がその違いに価値を感じれば、他社ではなく自社を選んでくれる理由になります。 製造業の強みは、他社と違うものを売れることではありません。他社と違うものを、自分たちの意思で生み出せることなのです。これは、商売において実に大きな武器だと思います。

「つくれる」という強みを使い切っているか

ところが、製造業の経営者ほど、この恵まれた立場を当たり前のことだと思っているように感じます。日々の生産に追われ、注文されたものを納期どおりにつくることに精一杯になる。そうしているうちに、自分たちが何をつくれるのかではなく、今ある設備で何をつくってきたのか、という発想にとどまってしまうことがあります。 もちろん、既存の仕事をきちんとこなすことは大切です。しかし、それだけでは、せっかくの製造業としての強みを十分に活かしているとは言えません。小売業や卸売業が、同じ商品をどうやって違うように売るかと必死に考えている一方で、製造業には、商品そのものを違うものにしてしまう選択肢があるのです。 今ある技術を使って、ほかに何がつくれるだろうか。顧客が困っていることを、ものづくりで解決できないだろうか。競合がつくっていないものを、自分たちならつくれないだろうか。 こうした問いを持ち続けることが、製造業の経営者には必要だと思います。「つくれる」ということは、他社との違いを自分たちの手でつくれるということです。その可能性を使わないのは、あまりにももったいない話ではないでしょうか。

後継者のあなたへ

あなたが先代から引き継ぐのは、工場や機械、設備だけではありません。そこで培われてきた技術、経験、工夫する力、そして新しいものを生み出せる可能性です。今ある商品を、これからも同じようにつくり続けるだけでは、その財産を十分に活かしているとは言えません。小売業や卸売業が、同じ商品を売りながら何とか他社との違いをつくろうと知恵を絞っていることを、思い浮かべてみてください。 製造業には、違うものをつくるという選択肢があるのです。 製造業は、違うものをつくれるだけでも幸せなのです。 だからこそ、ものをつくれることに満足するのではなく、その力を使って、顧客から選ばれる新しい理由をつくってほしいと思います。 あなたの会社は、今ある技術や設備を使って、これまでとは違う何を生み出せるでしょうか。

本記事は、事業承継センター取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。