貸借対照表は立派なのに、なぜ利益は目減りするのか

事業承継や中小企業診断の現場に身を置いていると、「イノベーション」という言葉を頻繁に耳にします。ただ、実際には漠然としたイメージで語られることが多く、何を指すのかがはっきりしないまま使われている場面も少なくありません。

経営者の立場でこの言葉の必要性を考えてみると、気になる共通点が見えてきます。それは、貸借対照表(BS)の内容は立派なのに、損益計算書(PL)は今ひとつという会社が目立つことです。BSが立派だということは、これまで稼いできた実績があり、良い時代を経験してきたということです。一方でPLが今ひとつだということは、現在は稼ぐ力が弱まってきているということを示しています。

厄介なのは、良い時代を経験したことがそのまま成功体験として根付いてしまう点です。変化を避けて現状を維持しようとする力学が、経営者本人だけでなく組織全体に働き始めます。そうなると、利益がじわじわと下がっていくことにも鈍感になっていきます。これは会社が衰退へ向かっている前兆であり、放置すればBSもやがて傷み、最後には市場からの退出を迫られかねません。イノベーションが必要だと言われる理由は、突き詰めればここにあります。

「儲けにつながるか」だけがイノベーションの定義

イノベーションには、プロセス・プロダクト・マーケティングなど、教科書的にはいくつかの類型があるとされています。単に製品をリニューアルしたり、作り方や売り方を少し工夫したりしただけでは、イノベーションとは呼べないという見方もあります。

しかし、経営者に向き合う立場から言えば、この整理はあまり実用的ではないと感じています。どれほど大胆なチャレンジであっても、画期的なビジネスモデルの変更であっても、儲けの目論見がなければ、あるいは小さな目論見しか描けなければ、それはイノベーションとは呼べません。逆に、世の中の定義には当てはまらないような、ちょっとした改善や改良であっても、それが会社の儲けに大きく貢献するのであれば、イノベーションと呼んでよいはずです。

私自身は、目安のひとつとして、数年のうちに売上や利益を2割程度押し上げる効果が見込めるかどうか、という基準で見るようにしています。大きなチャレンジであろうと小さなチャレンジであろうと、規模の大小は問いません。事業承継を控えた会社であれば、後継者がこれから何に取り組むべきかを考えるときの、ひとつの物差しになるのではないかと思います。

イノベーションは目的ではなく手段である

経営において常に意識すべきことのひとつに、「目的と手段」という考え方があります。手段は目的を達成するためのものであり、手段そのものを目的にしてはなりません。イノベーションも同じで、儲けるための手段であって、イノベーションを実現すること自体を目的にしてしまっては本末転倒です。

かっこいい体裁を整えることよりも、泥臭くても実を取ることのほうが、経営にとってはるかに重要です。事業を次の世代に引き継ぐ場面では特に、新しい取り組みが「見栄えのするチャレンジ」で終わっていないか、それが実際の数字にどうつながるのかを、経営者自身が問い直す必要があります。後継者に会社を渡す前に、今の事業のどこに儲けの種があり、どこに衰退の芽があるのかを、一度棚卸ししてみることをお勧めします。