朝ドラに描かれた、突然の代替わり
以前放送されたNHKの連続テレビ小説には、東大阪のネジ工場を舞台に、母娘二代で事業を承継していく物語がありました。二代目の父親が経営の重責を抱えたまま急逝し、残された母親には会社の借入の個人保証や雇用維持、取引先への供給責任が一斉にのしかかります。一度は廃業やM&Aを考えるものの、夫の遺志と従業員の不安を前に後継者として立ち上がり、娘がそれを支えていく――というドラマチックな筋立てです。
物語には、経営コンサルタントのような立ち位置で妹を支える兄も登場します。当事者ではない立場から状況を俯瞰し、後継者に寄り添う存在がそばにいたことが、この家族が最終的に危機を乗り越える力になったように見えました。
フィクションとはいえ、この展開は決して大げさではありません。経営者が突然倒れたとき、後継ぎ以外の家族が個人保証や連帯保証人の立場を否応なく引き継ぐケースは、現場で数多く見てきました。準備のないままの代替わりは、家族に大きな負担を強いることになります。
専門家が調整役として入っていれば
このドラマを見ていて強く感じるのは、「ここに専門家が調整役として入っていれば、ここまでのトラブルにはならなかったのではないか」という点です。
後継者の背中を押し、「勇気を出して、思い切ってやってごらん」と手を引いてくれる伴走支援型のアドバイザーがいれば、突然の承継であっても混乱を最小限に抑えられます。
一方で現場には、仕事の譲り方に問題があり、後継者も周囲も困っているのに、当の本人だけがそれに気づいていない、いわゆる「老害」化した経営者も存在します。こうしたケースでは、直截に指摘するのではなく、本人が自ら気づけるよう、遠回りをしながらも核心を外さずに導く関わり方が必要になります。ベテランの刑事が誘導尋問を重ねて本人に真実を語らせるように、じんわりと包み込みながら本質に気づかせる。承継支援には、そうした忍耐強い伴走の姿勢が欠かせません。
「話を聞くこと」に徹する時間の大切さ
私たちコンサルタントは、時には黙って話を聞くためだけに時間を費やすことも必要だと考えています。経験の浅い専門家ほど、自分の知識を使って課題を早く解決しようと焦り、一方的に話を進めてしまったり、沈黙の時間を恐れてしまったりすることがあります。
しかし、経営者や後継者が本当に必要としているのは、性急な答えよりも、自分の状況を整理し、腹をくくるための時間であることが少なくありません。財務や法務、労務など、支援者にはそれぞれ得意分野がありますが、自分の専門領域だけで解決を図ろうとすると、かえって全体像を見誤ることがあります。承継の現場では、複数の専門家が視野を広く保ちながら連携し、常に全体最適を意識した関わり方を心がけたいものです。
経営者・後継者の皆さんへ
もし今、経営者ご本人に万一のことがあったら、ご家族や後継者は、個人保証や資金繰りといった重い現実を、準備もないまま引き受けることになるかもしれません。
後継者の側には、背中を押してくれる伴走者はいるでしょうか。そして経営者ご自身は、仕事の譲り方について、後継者や周囲がどう感じているかを、あらためて振り返ってみてはいかがでしょうか。