本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

お客さんとの距離が近いことを生かせ。顔の見える商売が最大の強みだ。

なぜ、この言葉なのか

中小企業の経営者と話をしていると、業務の効率化や生産性向上という言葉をよく耳にします。もちろん、限られた人員で事業を続けるためには、効率を高めることは大切です。しかし、効率ばかりを追い求めることで、中小企業が本来持っている強みまで失ってはいないでしょうか。大企業と同じやり方で競争しようとしても、人員や設備、資金力では簡単にはかないません。だからこそ、私は、中小企業は大企業とは違うところで勝負するべきだと思っています。 その一つが、お客さんとの距離の近さです。

顔の見える商売だからこそ、できることがある

中小企業の商売の特徴は、お客さんとの距離が近いことです。お客様の名前や顔を知っている。どんな仕事をしているのか、何に困っているのかを知っている。ときには、社長の性格や家族のことまで知っている。そして、お客様の側も、こちらの社長や担当者の顔を知っていて、どんな思いで仕事をしているのかを理解してくれている。 こうした関係は、単に商品を売り買いするだけの関係とは違います。 例えば、いつもと少し様子が違うお客様がいれば、「何かありましたか」と声をかけられる。困りごとを聞けば、注文される前に提案できる。急な相談があれば、できる範囲で何とかしてあげようと思える。それは、相手の顔が見え、その人の事情や気持ちがわかっているからこそできることです。大企業のように、すべての顧客を同じ仕組みで効率よく対応することは難しくても、一人ひとりの顧客に合わせた、きめ細かな対応ができる。 私は、そこに中小企業の商売の強さがあると思っています。

非効率が、選ばれる理由になる

効率化を進めることは、決して悪いことではありません。しかし、何でも効率だけで判断してしまうと、顧客との関係を深めるための時間まで削ってしまうことがあります。用事がなければ訪問しない。注文につながらない相談には時間をかけない。売上の小さなお客様への対応は後回しにする。確かに、短期的に見れば、その方が効率は良いのかもしれません。 しかし、商売は、今日の注文だけで成り立っているわけではありません。 何度も顔を合わせ、何気ない会話を重ね、困っているときに相談に乗る。そうした積み重ねの中で、少しずつ信頼関係が生まれていきます。そして、いざというときに、「そうだ、あの人に相談してみよう」「困ったときは、あの会社にお願いしよう」と思い出してもらえるようになるのです。 これは、広告を増やしたからといって、すぐにつくれる関係ではありません。長い時間をかけて築いてきた信頼そのものが、他社との違いになるのです。 中小企業は、何でも効率よくこなすことよりも、あえて顧客のために時間を使うことで、選ばれる理由をつくれるのです。

顧客との距離の近さを、経営の強みに変える

ただし、お客様と仲が良いだけでは、会社の強みにはなりません。 大切なのは、その近さを生かして、顧客が何を求めているのか、何に困っているのかを誰よりも深く理解し、仕事に反映させることです。 営業こそが中小企業におけるマーケティングの担い手であるという話をしました。 顧客との距離が近いからこそ、生の声を聞ける。その声をもとに、商品やサービスを改善できる。そして、顧客の事情を知っているからこそ、ほかの会社にはできない提案ができる。 こうして、顧客との関係そのものが、会社の競争力になっていきます。 価格が少し安いから選ばれるのではなく、「自分たちのことをわかってくれているから、この会社に頼みたい」と思ってもらえる。 それこそが、中小企業が目指すべき商売の姿の一つではないでしょうか。

後継者のあなたへ

長年かけて築いてきたお客様との関係を、あなたはどのように受け継いでいるでしょうか。効率化や仕組みづくりを進めることは、後継者にとって大切な仕事です。しかし、その過程で、お客様との距離を遠ざけてしまっては、本末転倒です。 むしろ、顔の見える関係を大切にしながら、さらに深めていくことを考えてほしいと思います。お客様のところへ足を運ぶ。仕事とは直接関係のない話にも耳を傾ける。困っていることがあれば、一緒になって考える。そうした時間は、一見すると非効率に見えるかもしれません。しかし、その積み重ねが、他社には簡単に真似できない強みになるのです。 効率では大企業にかなわなくても、顧客を思う深さや、顧客との関係の濃さでは負ける必要はありません。

あなたの会社には、「困ったときは、まずあなたに相談したい」と言ってくれるお客様が、どれだけいるでしょうか。

本記事は、事業承継センター取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。